身体拘束廃止による虐待防止へ
近年施設職員による入居者への虐待が話題になっています。原因にはいろいろ考えられますが、まず第一に虐待のあった施設の理念の浸透が職員に図れていたのかが問題です。
施設にはその法人の目指す理念、思想があります。何故施設が存在しているのか、施設は何を目標としているのかを職員に周知しなければなりません。つまり経営者のポリシーを明確にしているかが問われます。又、この仕事におもむいた時の職員の気持ち、初心を忘れさせないように導くことも大切です。つまりこの仕事に対する誇り、プライド、楽しさ、やりがいの共有がチームとして必要です。
私は身体拘束が虐待に繋がっていくと強く思っております。ちなみに、セントポーリア愛の郷では身体拘束はゼロを継続しております。さて、以下に身体拘束について少し述べさせていただきます。
①身体拘束に関する定義
以下の11項目が行動を制限する行為として身体拘束にあたります。
- 徘徊しないように、車いすやベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
- 点滴・経管栄養のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
- 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
- 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
- 脱衣やオムツ外しを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
- 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
②身体拘束を行う場合は以下の3条件をクリアーしなければなりません。つまり3つの条件を全て満たさなければ身体拘束は出来ません。
- 切迫性:利用者本人又は他者の、生命又は身体が危険となる可能性が、著しく高いこと
- 非代替性:行動制限以外に、代替となる介護方法が無いこと
- 一時性:行動制限が一時的であること
〈留意事項〉
- 「緊急やむを得ない場合」の判断は、担当職員個人又はチームで行うのではなく、施設全体で判断することが必要である。
- 身体拘束の内容、目的、時間、期間などを高齢者本人や家族に対して十分説明し、理解を求めることが必要である。
- 介護保険サービス提供者には、身体拘束に関する記録の作成が義務付けられている。
③指定介護老人福祉施設サービスの取り組み指針として以下の事が明記されています。
第11条第5項
指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。
④身体拘束廃止未実施の場合は減算の対象となります。(2018年4月1日より)
厚生労働大臣が定める基準(態様及び時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録すること)を満たさない場合は、身体拘束廃止未実施減算となります。(1日につき5単位を所定単位から減算)
⑤身体拘束廃止を推進するための取り組みとしては以下の8項目があげられます。
- 「身体拘束を行わない」方針を明確にする。
- 「緊急やむを得ない」場合について厳密に検討する。
- 利用者の状態を把握し、身体拘束の危険性を検討するための仕組みをつくる。
- 身体拘束に関わる手続きを定め、実行する。
- 認知症ケアに習熟する。
- 施設内外で学習活動を行い、施設全体に浸透させる。
- 家族の理解に努める。
- 廃止のための取り組みを継続する。
⑥組織全体の取組として以下のことが求められます。
- トップの身体拘束廃止に対する姿勢が大切です。
- 施設全体の意思統一(研修会等)を行う事が大切です。原則身体拘束を行わないことと、拘束される側の気持ちを考えます。
- 認知症の行動・心理状況の原因・誘因は何かを考えます。代替策はあるかを考えます。実施・評価、拘束時間の縮小を考えます。
- 身体拘束廃止委員会を実施します。施設全体としての客観的視点を考えます。成功事例の積み重ね(学び、自信、応用)を検討します。